対応疾患
乾燥(涙液減少症,兎眼)、細菌・真菌・ウイルス・寄生虫感染、免疫介在性疾患、アレルギー疾患、外傷、刺激物質の曝露、眼瞼・睫毛異常などが発症要因です。
急性期には結膜浮腫や充血・細胞浸潤など、慢性期には上皮細胞の角質化や杯細胞増加などの変化がみられます。
涙液減少や流涙、眼瞼異常などにより眼表面が乾燥している場合には,結膜細胞診では、増加したムチン(涙液粘液成分)によってトラップされた多量の細菌が認められます。
また、多くの結膜炎にマイボーム腺を含む眼瞼炎が随伴して認められます。
結膜炎の好発品種には、眼球突出品種、眼瞼内反の強い品種、眼窩の深い品種がありますが、眼窩下脂肪減少などによる眼球陥凹時にも結膜炎は好発します。
角膜疾患は炎症性角膜疾患と非炎症性角膜疾患に大別され、炎症性角膜炎は潰瘍性と非潰瘍性、非炎症性は結晶性角膜混濁と非結晶性角膜混濁、および角膜腫瘍に分類されています。
潰瘍性角膜炎は涙液膜被覆障害による遷延性角膜上皮障害と外傷、非潰瘍性角膜炎は慢性刺激や免疫異常などが原因と考えられます。
角膜ジストロフィーは遺伝素因が原因となる角膜混濁を呈する疾患で、結晶性角膜混濁を伴う角膜ジストロフィー(実質型)と非結晶性角膜混濁を呈する角膜内皮ジストロフィーに分類されます。
乾性角結膜炎は潰瘍性角膜炎や色素性角膜炎の原因となる疾患です。
深層に至る潰瘍性角膜炎や色素性角膜炎は、短頭種や眼瞼内反犬種に多発する傾向があります。
角膜ジストロフィーは、シベリアン・ハスキー、シェットランド・シープドッグ、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、エアデール・テリア、ラフ・コリーなど、角膜内皮ジストロフィーは、ボストン・テリア、チワワ、ダックスフンド、柴などに好発します。
様々な感染症(細菌毛包虫などによる)、免疫介在性疾患、マイボーム腺の炎症、膿皮症などによって発症します。
【麦粒腫】
マイボーム腺や、睫毛周辺のツァイス腺やモル腺に細菌感染が生じたものを、その腫脹が麦粒のようにみえることから麦粒腫といいます。
細菌感染による場合、マイボーム腺の炎症を内麦粒腫、ツァイス腺やモル腺の炎症を外麦粒腫として分類します。 しかし、炎症がひどいと臨床的に区別するのは困難です。
【霰粒腫】
マイボーム腺に生じた肉芽腫性の炎症を霰粒腫といいます。これはマイボーム腺分泌物の分泌不全が原因とされています。
ワクチン接種後のアナフィラキシーショックでは、眼瞼の重度な浮腫性の腫脹が特徴的です。
【眼瞼内反症】
眼瞼が眼球側に内転している状態です。原因は先天性、発達性、続発性の3つに分けられます。
先天性は生まれながらにして、発達性は成長に伴い内反症となった状態です。これらの原因として、眼瞼裂が小さすぎたり大きすぎたりすること、眼瞼や頭部の皮膚の弛緩などが挙げられます。
続発性は、眼瞼周囲の皮膚の傷が瘢痕収縮したり、眼球萎縮の結果、眼のサイズが小さくなって起こることがあります。さらに、角膜炎などの眼部疼痛によって、痙攣性に眼瞼皮膚が内反することが知られています。
【眼瞼外反症】
眼瞼が外側に外反して、いわゆる“あっかんベー”をしている状態です。
外傷による眼瞼周囲皮膚の瘢痕化によって、発症することもあります。また医原性として、眼瞼内反の過剰矯正の結果、外反症を生じることがあります。
犬の眼瞼腫瘍では、マイボーム腺腫またはマイボーム腺上皮腫という良性腫瘍が最も多くみられます。皮脂腺上皮に富む腫瘍がマイボーム腺腫、基底細胞に富む腫瘍がマイボーム腺上皮腫と診断されます。
正確な病因は解明されていないものの、瞬膜腺 (第三眼瞼腺)と眼窩周囲組織の間を結合している線維束が脆弱化することにより、発症すると考えられています。
この脆弱化のため、通常は瞬膜腹側に存在する瞬膜腺が瞬膜自由縁 (第三眼瞼自由縁)と角膜の間から脱出します。
主に片側性ですが、両側性の場合もあります。多くの犬は1歳齢以下で発症します。 好発犬種としてアメリカン・コッカー・スパニエル、イングリッシュ・ブルドッグ、ビーグル、チワワ、ペキニーズなどが挙げられます。
鼻涙管の閉塞(および狭窄)には、涙点の閉鎖もしくは開口部が小さい小涙点、涙嚢炎、異物によるものが考えられます。
先天的には、涙点が小さいものもあるようです。後天的には、涙点から鼻管に細菌が侵入し、炎症が生じることで、炎症産物により鼻涙管が閉塞します。管壁が肥厚したり、癒着することでも閉塞します。また、涙管内に異物が存在し、閉塞することもあるようです 。
睫毛異常には、過長睫毛、睫毛重生、睫毛乱生、異所性睫毛などがあります。これらのうち、臨床的に最も問題となるのは異所性睫毛です。
異所性睫毛では、睫毛が眼瞼結膜側から眼に向かって生えるため、角膜に対する刺激が強くなります。
異所性睫毛の好発犬種は、シー・ズー、 イングリッシュ・ブルドッグ、ペキニーズ、ダックスフンド、マルチーズなどですが、なかでも短頭種に好発します。異所性睫毛の発症部位の9 割近くが、上眼瞼の中心部から耳側にかけて集中しています。
ぶどう膜を構成する、虹彩、毛様体、脈絡膜に炎症をきたした状態をいいます。特に虹彩と毛様体に炎症が限局したものを、前部ぶどう膜炎と呼びます。 炎症の原因として以下などが挙げられます。
●免疫介在性(白内障、ぶどう膜皮膚症候群、免疫介在性血小板減少症 な ど )
● 感染症 (ウイルス、細菌、リケッチア、 プロトゾア、 真菌、寄生虫などによる)
●代謝 (糖尿病、高脂血症、高血圧症など)
● 外傷性
一般的にぶどう膜炎といった場合、免疫介在性であると理解されます。
犬のぶどう膜炎は、原因を特定できない特発性が約半分を占めます。一方、原因を特定できたものの内訳では、腫瘍25% 、感染性疾患18%、ぶどう膜皮膚症候群 10%との報告があります。
水晶体蛋白の変性や水晶体線維の膨化 ・破壊、水晶体線維間への代謝産物や病的物質の沈着により、水晶体や水晶体嚢が混濁することで生じます。
遺伝性素因、糖尿病、外傷、薬物・中毒性 (網膜萎縮症の併発も含む)、加齢、栄養性、先天的要因などが原因となります。
遺伝性白内障は、若齢 ~中年齢以下の純血種で多くみられます。高齢では遺伝性の背景により、急速に進行する場合があります。
トイ・プードルやアメリカン・コッカー・スパ ニ エ ル 、 柴などに多くみられます。
房水の流出障害によって眼圧が上昇し、視神経乳頭が変性・萎縮して、網膜内の神経節細胞が障害されます。
原発性緑内障、続発性緑内障、先天性緑内障があります。続発性緑内障では、水晶体脱臼やぶどう膜炎、白内障、前房出血、眼内新生物などの眼疾患が、眼圧上昇の原因となります。
原発性緑内障は純血種で多く、柴やアメリカン・コッカー・スパニエル 、トイ・プードル、シー・ズーなどでみられます。
網膜の色素上皮細胞層と視細胞層が、眼底から分離した状態です。次の3つに分けられます(原因別)。
●裂孔原性網膜剥離
先天奇形や白内障進行、硝子体変性などによって生じた網膜裂孔が原因で発症し ます。
● 漿液性網膜剥離
感染症や高血圧などによって発症します。
● 牽引性網膜剥離
水晶体脱臼や硝子体出血が網膜の牽引を生じて発症します。
発症は、多くが裂孔原性網膜剥離です。網膜異形成がみられるラブラドール・レトリーバー、重度の硝子体変性がみられるシー・ズ ーやプードル、チワワ、イタリアン・ グレーハウンドでみられることがあります。
進行性網膜萎縮症 (PRA)は汎進行性網膜萎縮ともよばれ、網膜変性症の一疾患です。文字どおり、網膜変性 (萎縮)が進行性に生じて、最終的に失明に至る遺伝性疾患です。
一般的には中年齢以降の犬に発症します。好発犬種は、アイリッシュ・セター 、ノルウェジ アン・エルクハウンド・グレー、ダックスフンド(ロングヘアード・スムースヘアード)、シベリアン・ハスキー、サモエド 、トイおよびミニチュア・プードル、ラブラドール・レトリーバー、 アメリカン・コッカー・スパニエル、パピヨン、秋田など。
頭頸胸部の交感神経疾患による障害で生じる症候群です。交感神経の障害部位によって中枢性(一次ニューロンの異常)、節前性(二次ニューロンの異常)、節後性(三次ニューロンの異常)の3つに分けられます。
中枢性では脊椎の病変、節前性では上腕神経叢や頸部の病変、節後性では中耳や頭蓋骨の病変などが原因として挙げられます。
犬では高齢で発症する傾向があります。
原因は交通事故による胸部の外傷(腕神経叢の挫傷)、頭部や胸部の腫瘍、チョークチェーンや首輪による頸部の損傷、中耳炎が主です。原因が特定されないことも多くあります。
ゴールデン・レトリーバーの場合多くは特発性疾患です。