対応疾患
「てんかん」とは、大脳神経細胞の異常興奮により生じるてんかん発作を繰り返す慢性の機能性の脳疾患です。病因によって「特発性てんかん」と「構造的てんかん」に分類されます。
●特発性てんかん:遺伝的要因を除き、原因不明なものを指します。
●構造的てんかん:頭蓋内の器質的異常に伴うてんかんのことを指します。脳の奇形、脳の外傷、脳腫瘍、脳炎、血管障害など様々なものが挙げられます。
初回発作を1~6歳齢で発症する症例は「特発性てんかん」を疑います。なお、これ以外の年齢における発症も認められていますが、同年齢における原因不明髄膜脳炎、あるいは頭部頸椎接合部奇形(CJA) も多いため、鑑別診断が必要です。
国内の大規模調査では犬におけるてんかんの罹患率は1.87%で、そのうち「特発性てんかん」が48%、「構造的てんかん」が21.2%と報告されてい
ます。残りの30.8%は、おそらく「症候性てんかん」*またはMRI/CT検査未実施例です(図1).
*MR I検査未実施で発作以外の神経学的症候が認められた場合、その脳には構造的異常が存在している可能性がかなりあります。しかし、画像診断などの検査による脳の構造的変化の裏付けが取れない状況であるため、“おそら”というただし書きを添え、構造的異常は未確認ということからあえて「症候性」という用語を用いて分類しています。
神経から送られる情報を筋肉が受け取れないことで起こる、神経筋接合部疾患の一つです。すぐに疲れてしまうことが特徴です。
ジャーマン・シェパード・ドッグ、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバーなどの犬種で、多くみられます。
若齢と高齢のときに発症することが多いといわれています。
椎間板ヘルニア〈特にハンセンI型(椎間板逸脱症) 〉の際には、ヘルニア部の脊髄に急性の圧迫性傷害が生じます。この時、出血や水腫を伴う脊髄の広範な変性・壊死が認められます。これを進行性脊髄軟化症とよびます。出血や水腫が生じるメカニズムについては、まだ十分解明されていません。
椎間板ヘルニア・グレードV (後肢麻痺および深部痛覚消失)の約10~15%、後躯麻痺の3~6%に発症するといわれています。
脳室やくも膜下腔の中に貯留する脳脊髄液が増量して、脳室やくも膜下腔が拡張するために起こります。脳室が拡張する場合を内水頭症、くも膜下腔が拡張する場合を外水頭症として区別します。内水頭症のほうが多くみられます。
先天性水頭症は若齢での発症が多く、犬種としてはトイ種(チワワ、トイ・プードルなど)、短頭種(フレンチ・ブルドッグ、ペキニーズ、パグなど)で多くみられます。
後天性水頭症は、炎症・腫瘍・嚢胞・脳室内出血などによる脳脊髄液経路の閉塞(圧迫)、あるいは、脳実質の損傷・脈絡叢の腫瘍などによる脳脊髄液の産生過剰によって発症します。
先天異常・外傷・炎症・腫瘍など様々な原因に続発することが多く、脊髄内に長軸方向に管状の空洞形成を認める疾患です。病理学的には空洞壁に上衣細胞の内張りを欠き、星状膠細胞の増殖を認めます。
なお、脊髄実質の破壊を伴わない脊髄中心管の拡張のみの病態は内脊髄症(水髄症)として本疾患と区別されます。
二次的に起こる場合があるのでどの犬種でも発症する可能性があります。キアリ様奇形を有するキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルやヨークシャー・テリア、チワワなどの犬種で多く報告されています。
中耳炎は中耳が、内耳炎は内耳が炎症を起こした状態のことです。
犬では多くは外耳道の炎症が鼓膜を介して中耳に波及して、二次的に発症します。一方、鼻咽頭から耳管を介して細菌が中耳に及び、原発性に発症することも考えられます。キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルやボクサーなどでは中耳の炎症や耳管の機能不全により中耳内に粘稿性の非常に高い浸出物が充満して、原発性分泌性中耳炎(浸出性中耳炎)が発症することがあります。また真珠腫(先天的、後天的原因により鼓膜が中耳腔内に陥凹し、角化物が充満した状態)も発症原因あるいは悪化因子となります。
内耳炎の多くは中耳炎から波及した細菌感染や、細菌の産生する毒素により発症します細菌は血行性に感染する可能性もあります。
前庭疾患とは平衡感覚を失ってしまう疾患のことで、種々の原因で発症します。特発性前庭疾患はそのなかの一つです。
特発性前庭疾患は末梢性前庭疾患に含まれ、発生頻度は低いです。前庭疾患は中枢性前庭疾患と末梢性前庭疾患に分けられ、原因は多岐にわたります。発生は末梢性前庭疾患のほうが多く、原因の多くは耳の疾患に起因します。
特発性前庭疾患の病因は明確ではありません。身体の平衡感覚を維持するには末梢(前庭感覚視覚、体性感覚)からの情報が中枢神経系(脳幹や小脳)で統合される必要があります。この前庭感覚機能を担うのが内耳を構成する前庭と半規管です。この前庭と半規管の情報は前庭神経を介して延髄の前庭核、小脳へ連絡します。このルートのいずれかの部位に何らかの障害が生じると中枢性あるいは末梢性前庭疾患が発生します。
特発性前庭疾患では、このルートのどこにどのような異常が生じるかは明確ではありません。
脳に炎症が起こる病気です。
細菌性やウイルス性などさまざまな原因がありますが、犬では、原因不明あるいは免疫異常によるものが最も多いです。
パグやヨークシャー・テリアなどの犬種では、原因不明の脳炎が発症しやすい傾向があります。
MRI検査と脳脊髄液検査で、脳内の炎症の有無を評価します。
狭義の脳腫瘍とは、脳実質を構成する神経外胚葉組織に由来する腫瘍を意味します。しかし一般的には、頭蓋内に発生するすべての腫瘍を脳腫瘍とよびます。
脳腫瘍のうち、 特に犬で最も発症頻度が高いのは、 髄膜の一層でくも膜に由来する髄膜腫(meningioma)です。髄膜腫に次いで、星状膠細胞腫(astrocytoma)や希突起膠細胞腫(oligodendroglioma)などの膠細胞性腫瘍(glioma※)の発症が多くみられます。
※グリア細胞に由来する腫瘍の総称。国内では特にフレンチ・ブルドッグに膠細胞性腫瘍が多く発生する傾向がみられます。
広い年齢層にみられる変性性疾患で、運動失調を特徴とし脊髄に病変が確認されます。病理組織学的には、脊髄白質の空胞化、ミエリン鞘の消失軸索の変性などが様々な程度で認められます。
本疾患は多くの名称で報告されています。本疾患群に分類されるものには運動神経病としての特徴を有するものも多く認められます。
ウェルシュ・コーギー・ペンブローク、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ボクサー、ラブラドール・レトリーバーなどの様々な犬種において、広い年齢層で生じることが知られていますが、多くの犬種では5歳齢以上(平均8歳齢)、ウェルシュ・コーギー・ペンブロークでは約10歳齢で発症します。
本疾患はドーベルマン、グレート・デーンなど、主に大型犬に好発する脊椎の形態異常に関連した尾側頸髄の損傷性疾患の総称です。 本疾患では脊柱管の狭窄により頸部脊髄が慢性的な圧迫性障害を受ける点が特徴となります。発生原因には栄養、外傷、成長期の問題などが関連していると考えられており、ドーベルマン、グレード・デーンでは遺伝的素因が疑われています。
本疾患に罹患する犬種の60 ~80% はドーベルマンおよびグレー ト・デーンですが、 わが国ではバーニーズ・マウンテン・ドッグ、ワイマラナー、ボルゾイでも時折認められ、C5~C6そしてC6~C7で好発します。また、中~高齢のヨークシャー・テリアも同様の病態が発生することが知られています。
頸椎を構成する椎体7個のうち、第1頸椎 (環椎) と第2頸椎 (軸椎)の接合の不安定化のため、頸部痛や四肢不全麻が生じる疾患です。これらの症状は頸椎部脊髄や、同部より走行する末梢神経の二次的傷害に起因します。
遺伝的背景を有する場合は通常、若齢で発症します。 ただし、いずれの年齢や犬種でも、外傷などの物理的障害によって発症しうる病態です。トイ・プードル、チワワ、ヨークシャー・テリアなど、小型のトイ犬種での発症が多くみられます。
● 胸部椎間板ヘルニア(TL-IVDH)
「遺伝学的要因」や「加齢により変性した椎間板髄核の脊柱管への逸脱 」や「線維輪の膨隆による脊髄神経の圧迫」を特徴とします。
●頸部椎間板ヘルニア(C-IVDH)
TL-IVDHと同様に遺伝学的要因が関連しており、「変性した椎間板物質の脊柱管内への逸脱」や「線維輪の膨隆による脊髄神経および神経根の圧迫」を特徴とします。
脊柱管内にある腰椎尾部と仙椎部にある脊髄神経を馬尾神経と総称します。この馬尾神経が分布する腰仙椎部の障害に随伴する神経学的異常のことを、馬尾症候群といいます。
慢性的圧迫による馬尾症候群は、ジャーマン・シェ パード・ドッグ、ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバー、バーニーズ・マウンテン・ドッグなどの大型犬において、発症が多い傾向があります。
対応検査
- 血液検査
- X線検査
- エコー検査
- CT検査
- MRI検査