対応疾患
食道炎の原因としては、胃食道逆流(GER)、刺激性の物質や異物の摂取、熱傷、持続的な嘔吐などが挙げられますが、一般的にGERが最も多いと考えられています。
炎症が粘膜表層にとどまらず、粘膜下織 や筋層まで波及すると、食道狭窄が起こるリスクが高まると考えられています。 麻酔によって生じるGERは、食道狭窄の原因の代表的なものであると考えられています。
食道疾患の最も一般的な症状は吐出であり、嘔吐との鑑別が重要です。吐出では吐き出す動作の時に腹部の収縮運動が認められないのが特徴的であり、常に腹 部の収縮運動を伴う嘔吐とは対照的です。他の症状としては、食道相の嚥下困難 (嚥下動作の反復や嚥下に伴う痛みなど)、流涎、悪心、食欲低下、活動性の低下、体重減少などがあります。
消化管粘膜に炎症が生じた状態を指す用 語で、胃粘膜に炎症を生じたものを胃炎、腸粘膜に炎症を生じたものを腸炎とよびます。厳密には診断名ではなく症候名です。発症から数日程度の持続であれば急性、数週間持続している場合は慢性と分類し、例えば急性胃炎、慢性腸炎などのように命名します。
胃炎の症状は嘔吐が最も一般的で、重度の場合は食欲不振を伴います。嘔吐は“ そわそわする” などの前兆がみられ、腹筋の収縮を伴うことが吐出との鑑別点です。
胃の拡張と変位に起因する疾患です。過度な胃拡張や捻転のために、心臓への血液還流量が低下して、血圧低下やショックを誘発します。
捻転による血流障害のために、胃の虚血や壊死が起こり、壊死部位が穿孔して、腹膜炎や敗血症を発症することもあります。
一般的には、グレート・デーン、ワイマラナー、セント・バーナード、 ジャーマ ン・シェパード・ドッグ、アイリッシュ・セターなど、大型で胸が深い犬種で発症が認められます。 発症は年齢を問わず、性差も認められません。
幽門狭窄の病因は先天性または後天性です。
● 先天性:胃の出口 (幽門)の筋層が厚くなり、胃から食事や水を排出しにくくなります。短頭種で多く、1 歳齢以下で発症します。
● 後天性:粘膜のみ、または粘膜と筋層が厚くなります。小型犬(10kg 以下/シー・ズー、マルチーズ、ラサ・アプソ)の雌より雄で多く報告があります。 呼吸症状の出ている短頭種の犬でも多くみられます.
比較的、若~壮齢で発症します。慢性経過をたどり、 やせている患者が多くみられます。
蛋白漏出性腸症とは、血漿蛋白(特にアルブミン) が腸粘膜から腸管腔への異常漏出による低蛋白血症を主徴とする症候群です。病因は、リンパ系の異常、血管透過性の亢進、腸粘膜上皮の異常です。 主な原疾患は、腸リンパ管拡張症、慢性胃腸炎、消化器型リンパ腫などです。
発生率は若齢よりも高齢のほうが高率ですが、性差はありません。ヨークシャー・テリアは腸リンパ管拡張症の好発品種として挙げられます。
腸閉塞の原因の大半は異物摂取です。トウモロコシの芯、果物の種、紐状異物などにより起こります。腫瘍による閉塞や腸重積によっても起こり得ます。まれに 麻痺性イレウス(物理的な閉塞ではないタイプ) もみられます。 異物は、飲み込んでも小腸で詰まりやすいです。
異物摂取は、活発な若齢でよく起こりますが、高齢になってもみられます。飼い主が自宅における管理をしっかり行い、次のことについて、 少しの変化も見逃さないことが大切です。おもちゃの紛失や 破損 、衣服のボタンがとれている、タオルが裂けている、食欲、元気、 排泄、嘔吐など。
犬の直腸に発生する腫瘍としては、ポリープ、腺癌、リンパ腫などが報告されています。良性、悪性の発生頻度は同等とされます。 ポリープは直腸遠位に発生し やすく、およそ80%は単発、20%は多発病巣を形成します。
わが国では、ミニチュア・ダックスフンドにおけるポリープがよく認められます。しかし、ミニチュア・ダックスフンドでも、腺癌やほかの腫瘍の発症もあることから、どのような症例であっても生検の実施は重要です。
腺癌、リンパ腫、 平滑筋肉腫、消化管間質腫瘍(GIST)、線維肉腫などが多くみられます。胃と小腸の腫瘍では悪性が多くみられます。
胃腺癌は、8~10 歳齢、まれに5歳齢くらいで発症します。雄犬に多くみられます。胃の幽門洞と小湾に発生しやすく、次の3 タイプに分けられます。胃の外側(粘膜ではない側)に発生するもの、胃潰瘍のようになるもの、ポリープ状になるもの。70~80%の確率で転移します。胃の近くのリンパ 節、肝臓、肺に転移しやすいです。
小腸の腫瘍は、多くは7歳齢以上で発症します。良性では平滑筋腫、悪性ではリンパ腫、平滑筋肉腫、腺癌、肥満細胞腫、線維肉腫などがみられます。このように多くは悪性腫瘍です。
雄性ホルモンに依存する病態ですが、他に、腹圧のかかる様々な状態 (咳、よく吠える、腹腔内の腫瘍、妊娠、前立腺肥大、便秘や下痢、排便困難、排尿困難) が関わって起こります。
骨盤隔膜を構成する筋肉群 (肛門括約筋、肛門挙筋、 尾骨筋)の萎縮によって、腹腔内臓器が会陰部に脱出します。
中~高齢の未去勢雄犬に発生しやすい一方、去勢雄や雌犬も罹患します。
好発犬種はミニチュア・ダックスフンド、ウェルシュ・コーギー・ペンブローク、フレンチ・ブルドッグ、ヨークシャー・テリア、 シェットランド・シープドッグ、パピヨン、シー・ズー、ペキニーズなどです。
肛門嚢は排便時に収縮する肛門括約筋に挟まれるように存在し、貯留した分泌物を排出する仕組みが備わっています。
肛門嚢炎は主に細菌感染(糞便由来)や肛門嚢の導管閉塞の結果、起こります。肛門に炎症が起こると分泌物は排泄されず貯留して、違和感、自潰、肛門嚢の破裂ならびに瘻管形成をもたらします。
肛門嚢炎は犬の10%ほどが罹患するとされます。
あらゆる犬種・年齢に起こり、性差はありません。 再発症例においては、片側もしくは両側の肛門嚢切除術を行います。
犬の肛門周囲腫瘍の多くは、肛門周囲腺腫と肛門嚢アポクリン腺癌です。
肛門周囲腺腫は良性で 、去勢手術と腫瘍切除によって、その多くは治癒します。
肛門アポクリン腺癌は悪性で、腰下リンパ節、肝臓、脾臓、肺、椎骨、骨などに転移します。
肛門周囲腺腫はアンドロゲン依存性のため未去勢雄に多く、雌犬での発症はまれ です。 尾根部、包皮、後肢体幹 、肛門周囲に発生します。
肛門嚢アポクリン腺癌は雌でも認められますが、 雌での発生はほとんどが腺癌です。
対応検査
- 血液検査
- X線検査
- エコー検査
- 内視鏡検査
- CT検査